国鉄電車の標準的な主電動機MT46(A)/MT54について考える(その四)
111・113系電車の限流値について調べてみます。
111系電車は登場当初はMT46の1時間定格の300Aとしていた可能性がありますが、少なくとも113系電車登場後は350Aとされています。
そもそも、MT46使用の車両をざっと眺めてみても、113系登場前の初期の段階から、153系電車では320A(後に165系電車との混用に伴ってか350Aで使用されるようになった模様)、157系電車では限流値400A使用としていますから、1時間定格の300Aが許容値ではなく、限流値の設定は変電所容量などの問題(モハ90→101系電車は当初全車電動車で計画されていた)や使用状況と関係あるように思います。
また、113系の限流値は1時間定格の360Aではなく350Aとされています。
全界磁でMT46は117kw/1770rpm、MT54は120kw/1640rpmになります。
(三)で1時間定格出力をMT46が99kw、MT54が123kwと導いていますから、限流値の設定により113系電車は若干控えめにし、111系電車の方をかなり引き上げている事になります。
で、MT46・MT54を共に350Aで使用した場合、回転力の差は約11%に縮まります。
(三)と同様に図を順を追って見てみます。
フルノッチ入れたとします。
すると電車は歩調を合わせて走り出します。
MT54車は約55km/hで弱界磁に進段し、MT46車は並列段のまま加速し、約63km/hで弱界磁に進段します。
100km/h程度までMT54車の出力が上回る事が図から読み取れます。
つまり、MT54車は殆どMT46車を引っ張っている形になります。
では、3ノッチで止めた時はどうでしょうか。
MT54車は約55km/hで回転力が低下し始めます(1時間定格時と比較すると約0.5km/hほど速度が高い)。MT46車は回転力を維持できる速度が約60km/hに低下します。途中、57km/h辺りでMT54車を上回ります。
MT54車は起動後約55km/hまでMT46車のおよそ1割増しの回転力で引っ張りますが、その後その差は縮まってゆき、約57km/h以上ではMT46車が引っ張る形になります。
平たく言えば、限流値を上げれば回転力が上がるが引っ張れる回転数は下がる、という事です。
最初に言った通り、定格値
MT46:375V/100kw/300A/1860rpm
MT54:375V/120kw/360A/1630rpm
を分かったかのように書いたところで電流値(設定限流値と言ってもいい)ごとの特性を見なければ実際のところは分からないのです。
私はMT46(A)とMT54を同系、と言いましたが、目立つ違いは抵抗値です。
MT46に比べ、MT54は巻線導線径を大きくした、と言ったところが主な違いなのかなと思います。
但し、それによって出力特性は結構変ってしまうのです。
最後に、鉄道関連書籍ではどう書かれているか、一例を挙げておきます。
以前にも取り上げた
福原俊一著、「111・113系物語」JTBパブリッシング・2013
にはこう書かれています。113系電車に関して、
「性能面は111系と特性を合わせて併結可能とし、歯数比も同一の4.82が採用されている。」(p.38)
自称"電車発達史研究家"はこのレベル。少し「研究」すれば、こんな素人感丸出しの恥ずかしい言い方はしないと思いますけどね。
113系電車は1時間定格に近い使われ方をし、111系電車は使用線区に鑑みて限流値を引き上げている、というのが実際のところなのです。
国鉄はMT46をMT54に置き換えていく方向になって、113系電車もその中で登場していて、多くの線区で111系電車が特に非力であったとも考え難く、それでも全国的な車両の転配の可能性のある国鉄では、MT54に統一するというのは理に適っているといえます。
ちなみに山用115系電車は限流値が420Aとか440Aに設定されていたようで、MT54を使用していた115系電車以外でも定格以外の限流値の設定は常態化していたようです。
115系電車は111・113系電車のようにMT46とMT54を混用する事を考慮していないと言ったところでしょうか。
得られた図を辿ってみると、MT54は420Aでは142kw/1636rpm、440Aでは149kw/1612rpmくらいになります。
私見になりますが、MT54はMT46のパワーアップ版というより、電流値に幅を持たせ、使用領域、対応幅を持たせた鉄道車両用汎用直流モータ、と言えるのではないかと思います。
どうでしょうか。主電動機特性曲線は、全体的な車両性能が導き出せる拠り所になる、という事が分かると思います。
私はそんなに難しい事を言っているわけではありません。
基礎的な事も考えられずに鉄道関連書籍にいい加減な記述を続けている人が多い。また、そのような人に記述を許している各出版社には猛省を促しておきます。
なお、この一連の記事はアバウトな「主電動機特性曲線」を基に各値を捻り出していますので、数値に元図に由来する誤差がありますので注意願います。
ただし、出てきた各値にそれほどおかしな所もなさそうですから、元図はそれなりの信用性があると考えてよさそうです。
国鉄は計算に用いる動輪径を基準-40mm(860mmであれば820mm)で計算していますが、本記事では車輪基準径そのもの(860mm)で速度換算しています。